私の後継

  • 水のご加護を賜る教会にて #6
  • 私は主に見放されたかと思いました。しかし、それこそが恩寵であったのです。

今日は週に一度の礼拝です。いつものように、祈りの水を整え、床を掃き、……お手洗いを済ませます。礼拝堂を開け、いらっしゃるみなさまをお待ちいたします。そして、一度目の儀式、歌、説教を穏やかな気持ちで終えます。みなさまを見送ります。今日は少し出足が遅いようで、空になった礼拝堂へすぐに入っていらしたのは、一家族だけでございました。そちらの娘さんが、私の方へ駆けていらっしゃいます。ご本のことも熱心に学び、周りへの思いやりにも優れる、ミリィさんです。ご本人がその生き方に興味をお持ちなら、いずれ、主の教えを広める道にお進みになったらと内心思うほどです。
「あら、ミリィさん、今日もお早いですね。」
「あ、その、教会のこの雰囲気が好きで、始まるまで待っているのも好きで……。」
わかります。この広い礼拝堂で、ひとり、主のことを考え、あるいは何も考えずに、静かに過ごす。みなさまと祈りを共にする時間も尊いものですが、それとはまた違い、言いようがなく心が澄んでまいります。後の礼拝と相談会ではとても、そうあることができないものですから。
「ミリィさんは、周りをしっかりと見る力と、それを感じる力があって、素敵ですね。私も、礼拝堂にみなさまがいらして温まるときも幸せですが、まだどなたもいらっしゃらない静かな礼拝堂で、ひとり過ごすこともありますよ。似ていますね。」
「あ、そんな、えへへ……。」
こうしたお話から、もっとこの役割に興味を持っていただけたらとも思いますが、人もそろそろ増えてくることでしょう。早めに準備を済ませておかねばなりません。
「おしゃべりも楽しいのですが、ごめんなさい、後の儀式に向けて準備をいたしますね。」
私は、今はまだ落ち着いた気持ちで見つめることのできる、そしてしばらく後には私の心を満たしてしまうであろう祈りの水を、大きな盃から小さな盃へ、移していきます。

十時半になりました。二度目の儀式を始めます。こちらも、いつも通り、滞りなく終えます。いつも通りということは、その、こぽこぽと、お水が私に注がれて、いえ、まだ、先は長いのですから。歌の合図をいたします。一度目の礼拝では、みなさまの声が響きあうことに心を震わせ、あらためて主に感謝を捧げる、そうした気持ちが自然と湧き上がってまいりますが……、今は、申し訳ございません。それよりも、せねばならないことがあるのです。しっかりと、しっかりと、水門を締めつけます。そうしなければ、足踏みなどしてしまったら、こんなに大勢の前で、どなたかは、見咎められることでしょう。いえ、我慢できます。お手洗いに行きたい。お手洗いに。お手洗いに……まだまだ、少なくともあと一時間は、まず行けないのですから。説教を申し上げます。原稿のとおりに、落ち着いて、話せばよいのです。お手洗い。おてあらい。おてあらいにいきたい。駆け込んで、ローブを上げ、下着を下ろし、いけません、こんな想像をしては……。行きたくありません、私は、まだ説教の間ですから、お手洗いなんて行きたくないのです。心の中は、主と、村のみなさまへの思いでいっぱいのはずです。そうです。行きたくないんです。水の巫女なのですから、おしっこなんて、したくない、がまん、がまん、はやく、トイレに、トイレ、トイレっ……。もちろん毎回違いはございますが、今日は、早い方だと感じます。いえ、そんなことを考えてはいけません。いつも同じく、何の差しつかえもなく、務め上げるのです。みなさまをお見送りいたします。相談会にいらっしゃる人数を確かめます。どうか、今日は少なくいらっしゃいますように。どうか、どうか、お願いいたします。

八人……! いつもは、四人から六人くらいではございませんか。どうして今日に限って、どうして、もう、今日は、ちょっと、人数がわかればもういいです、残られる方が順番を話しはじめるやいなや、告解室に入ります。ドアを閉めた途端、ぎゅううう、ぎゅうううっ。はぁ、やはり、これは、生き返ります……。お腹をかばうように、腰を曲げ、膝をつきます。お腹というものは皮膚に包まれていますから、包める大きさに限りがございます。同じ包みで、できるだけたくさんのものを覆うためには、丸くするのが一番です。ですから、これは理に適っているのです。決して、真っすぐ立っていられなくて、はしたなく身体を丸めているのではないのです。ぎゅう。ぎゅ。ぎゅうぎゅう。はぁぁ。もう、なんだかわからない心地です。決して悟られてはならなかった礼拝堂から告解室へ移り、はじめの方がいらっしゃるまでのこの時間。お手洗いに行けたわけではございません。私の身体では、十二杯もの祈りの水が、早く自然へ返すようにと、大声で叫んでいます。それでも、一人きりになれるこの瞬間、なりふり構わず我慢できるこの瞬間は、まるで済ませられたときのような安堵感と解放感に、顔が熱くなるのです。いつまでもこうしていたい。ですが、まだ、これから、相談会が待っています。うううぅ。まだ相談会があるのに、もう、こんなに、こんなにっ……。いえ、私は、水の巫女です。行きたくなんかない、したくなんかない。今日は、八人。お一人十分……というわけには、さすがにまいりませんか。でも、早く満足されたかたは、どうか、十分ほどに。みなさまに十五分をかけてしまったら、二時間、それは、そんな、私は……。すぐ後ろで、ノックが聞こえ、私は我に返りました。私はずっと、入り口すぐで、座り込んだままだったのです。押さえたまま立ち上がり、椅子に座ります。もう一度ノックが聞こえます。いけません、お待たせしすぎました。手を離し……たくない、手を離したら、そんな、だって、もうこんなにしたいんです、あぁ、またノックをさせてしまう、私は嫌がる手を無理やり机に移します、がまん、がまんしなくちゃ、できる、できる、平気、へいきっ……!
「どうぞ、お入りになってください。」
押さえたい、押さえたい、トイレに行きたい、トイレに、早く、トイレに行かなきゃ、今日は、本当に、急がないと……! ドアの音がして、お一人目がいらっしゃいます。あと八人。トイレ。トイレ。トイレ、トイレっ……!

「ありがとうございました。」
七人目の方が、椅子から立ち上がられます。よく、頑張りました。よく、隠しました。まだだめです。がまん。お部屋を出て行かれるまで、あと少し。あと少しです。隠すのです。がまん。がまん。水の巫女が持つ秘密を。見せてはいけません。おしっこがもれそう。おしっこ。おしっこ。
「お役に立てましたか。また、いつでもいらしてください。」
ドアの方へ振り向かれます。指を移します。万一振り返られても、机がありますから、直接はお見えにならないでしょう。ですが、腕の動きも、足元の動きも、見えてしまうかもしれません。ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう。まだ、出ていません。我慢できます。私は水の巫女なのですから。我慢できます。もうドアです。手を戻します。太腿を、せめてこれだけはと、強く強く強く、締め付けます。
「本当にありがとうございました。」
「神のお導きがありますように。」
ドアが閉められます。ぎゅううう。腰を曲げます。おしっこでる。おしっこ。おしっこ。おしっこしたい。トイレ。トイレに行きたい。トイレ休憩をください。それだけでいいんです。トイレに行かせてください。一時間半で終われませんでした。本当に二時間、かかってしまいます。そんな、無理です。もう。もう。どうか、すぐに終わりますように。些細なことでありますように。ぎゅう、ぎゅう、もじ、もじ。おしっこ。おしっこ。おしっこしたい。あと一人。あと一人です。これを乗り切ったら、教会から誰もいなくなったら、もうどうなってもいい。それくらい、したい。トイレに行きたい。ノックの音が聞こえます。離したら出ちゃう。離したら出ちゃう。離したらでちゃう。

「どうぞ、お入りください。」
自分の意思で離せる気がせず、先に口にしました。そうすれば、水の巫女としての誇りが、私を動かしてくれます。ぱっ。手を、戻します。波が押し寄せます。おしっこ。きちゃう。きちゃう。だめ。がまん。がまん。あと少し。もう少し。ここまで頑張ったんだから。
「失礼いたします。」
おしっこでちゃう。
「ミリィさんは、いつも周りを気遣って最後まで待っていらっしゃいますよね。どうぞ、おかけになってください。」
おしっこしたい。ミリィさん、ごめんなさい。こんな、心を乱した私で、ごめんなさい。どうか、どうか、今日はどうか、短めに、もう、今すぐ、トイレに行かないと、トイレに、トイレ、トイレっ! 相談の中身が、まるで頭に入ってまいりませんが、なんとか、会話ができています。トイレ、トイレ。お願いします。参考になっているでしょうか。私はお役に立てていますか。おしっこ。おしっこ。おしっこしたい。トイレで、ぜんぶ、はやく。何分お話しいたしましたか。隠せていますよね。手は、押さえておりません。足も、太腿を締め付けている以外は、音を立てたり、揺すったり、しておりません。我慢できています。あ、ぁ、くる、きちゃう。だめ。あ、ぁ、こんな、もれちゃう、もれちゃう、今してしまったら、そんな、いや、こないで、こないで、おしっこ、こないで、だめ、私もう、がまんできない。
「どうでしょうか……それで、まだお悩みのようでしたら、来週も後の番に振り替えて、いらしてくださったらと存じます。」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。もうだめです。どうか、秘密を守るために、今日は終わりにしてください。トイレに行く。もういく。いく。
「はい、そうしたいと思います。ありがとうございます。」
おしっこ。おしっこ。どうかまだ出ないでください。お願い。おねがい。
「お力になりきれなくて申し訳ありませんが、一週間ゆっくりと、試してみてください。気をつけて、お帰りになってくださいね。」
おしっこ。もれちゃう。
「いえ、そんな、とても学びになりましたし、心も楽になりました。ありがとうございます。」
がまん。がまん。無理に切り上げてしまいました。そういうことはないようにと、戒めているはずでした。でも、今日は、いつもより早い日で、それなのに、多くいらしたから。いつもはいたしません。今日だけ。ですからどうか、お赦しください。ごめんなさい。最後の一人が立ち上がられます。ドアへ向きなおられます。手が駆け出しますが、今押さえてしまったら、もう、退室のご挨拶で離せる気がしません。押さえちゃだめ。手に頼らないで我慢して。がまん。がまん。もじ、もじ。もじ。足くらいなら、たぶん、お辞儀なら、目立たないかもしれません。もうわかりません。振り返られます。
「主のお導きがありますように。」
一応、脚の動きは、止めたはずです。ドアが閉まります。ずっとわめいていた手に自由を許します。涙が出そうです。でも、まだ押さえただけです。ここでしてはいけません。右手で片靴を脱ぎます。椅子に上げます。出口に押し当てます。こんなに、こんなにもはしたなく我慢して、なのに、もう、でちゃう。ミリィさんが教会から離れるのを確かめる。お手洗いに誰も来ないことを確かめる。そうして、入る。あのときのように、お手洗いの前で鉢合わせてしまったら、もう、私は隠せる気がいたしません。ぐりぐり。おしっこ。おしっこ。これ以上降りてこないで。おしっこ。こんなに押さえているのに。いや。いや。こないで。

少し、待ちました。もう時計を見る余裕はありませんが、少し経ったはずです。トイレに行ける。トイレに。やっと、やっと、トイレ。トイレ。トイレ。考えるだけで、濁流が私を責め立てます。でも、今から、踵を外さなければならないのです。少しでいいから、収まって。私は立つんです。トイレに行けるから。もう、波が引くのを待つ方がいいのか、一秒でも早い方がいいのか。とにかく踵を外し、左手に力をこめ、靴に足を突っ込み、立ち上がります。お腹の形を、少しでも丸く保ちながら、揺らさないように、静かに、静かに歩きます。もうこわれちゃう。おしっこ。告解室のドアから顔を出して……どなたも、いません。そのまま、進みます。膝から下だけの一歩で、そっと、そっと。礼拝堂の扉です。離さないといけない。立たないといけない。トイレまであと少し。あと少しですから。手を離します。がまん、がまん、がまんがまんがまん。あ、あ、あっ。出ていませんよね、多分、出ていません。もう、感覚がわかりません。扉を開けます。おしっこ。おしっこ。いつもより明らかに近くですが、とにかく、ミリィさんは帰りはじめていらっしゃいます。ということは、もう、誰もいない。トイレに行ける。おしっこでちゃう。仮に振り返って見られても、すべてを終えて一息ついているだけですから、トイレに行ってもいい。こんなに危ういということさえ、知られなければいい。おしっこできる。おしっこできる。私は静かに、その静かさが優雅さに見えるように、一歩進みました。おしっこできる。待ち望んだ離れをとらえようと、私は顔を向けます。そのとき、道ではなく原っぱを走る小さな女の子が、目に入りました。いえ、大丈夫、静かに行けばいい。ただ、何気なくトイレに行くだけ。それならいいのです。トイレに行ける。おしっこできる。おしっこできる。女の子の姿が大きくなります。その女の子は、その子の手は、私が今までしていたように、前をぎゅうぎゅうと、押さえつけていました。あの子は、トイレに向かっている。私が今行けば、譲るしかありません。あの子は子供で、私は大人ですから。どんなに、本当は、私の方が、いっぱい、いっぱい我慢していて、いまにも、もう、もれ、そう、でも。トイレを、目の前にして、できない。そんなことになったら、全部、ぜんぶ、そこで。私は踏み出した歩みを戻し、扉を閉めました。膝をつき、踵を押し当てます。がまん、がまん、がまん、がまんがまんがまん、がまん、しなきゃ。主よ、あんまりです。あの女の子があと五分早ければ、いえ遅くても、よかったのではありませんか。私が、ここで、失敗してもいいと仰るのですか、この礼拝堂で。ずっとずっと我慢してきたのに、おしっこ、もれちゃう、もれちゃう、もれちゃう。トイレに行かせて。私はもう、獣のようだったかもしれません。おしっこを我慢する、それがすべての生き物。ここで出してはいけないという、トイレに行くという、それだけが、最後の人間らしさでした。何分待てばよいかなど、女の子のことを考えてしまったら、女の子のすっきりする姿を想像してしまったら、その瞬間に噴き出してしまいます。無心で、無心といいながら、お預けになった場所を心の中で叫びながら、とりあえず少しだけ、待ちます。トイレ。トイレに行かせてください。トイレに行かせてください。といれにいかせて。おしっこ。おしっこ。わたしもう、こんなにがんばったんです。といれ。といれ。といれ。もう、いいですよね。待ちましたよね。もう、波などありません。いつでも、最も大きな強さで、お水が、出てこようとしています。もう、もれそう、なんていう言葉でいいのでしょうか。噴き出しそうです。噴水のように。踵を離します。揺らさないように、揺らさないように、立ち上がります。手を離します。これらの、一つ一つの動きに、全神経を注ぎます。おしっこ、おしっこ。がまん。でないで。おねがいだから。扉を開けます。道を見ても、いません。原っぱに目をやると、先ほどの女の子と同じ服を着た後ろ姿が見えます。そして、ほかには、誰もいません。おしっこ。今度こそ、今度こそ、私の番。私がおしっこする。ローブは、ゆったりしていますから。仮に遠くから見られていたとして、近くには誰もいらっしゃいませんから。がまん、がまん。あとちょっと、がまん。ローブの下、太腿はすり合わせたまま、膝から下をゆっくりと、ゆっくりと動かすと、待ち望んだお手洗いが、少しずつ、少しずつ、近づいてきます。

洗い場の扉に手が届きます。私は、耐えきりました。今までできっと一番の、厳しい日を、なんとか、ここまで参りました。トイレ、トイレっ。あと扉が二枚、たった数歩で、私は救われます。扉を開けます。閉めます。洗い場です。もう人の目はございません。なんでもいい。耐えるために、一秒でも早く出すために、ローブをたくし上げ、下から手を入れて、水門を押さえつけます。足を踏み鳴らします。きちゃう。だめ。おねがい。あと少しだから。ドアが見えています。おしっこ。あと二歩。おしっこ! あと一歩。おしっこ!!! 残った右手で、トイレのドアを思い切り開きます。がちゃん!! えっ? えっ? どうして? えっ? じゅい、じゅいい。これからの動きを準備して、カウントダウンに入っていた、私の水門が震えました。生暖かい。だめ。だめ、今は絶対にだめ。最後の力を振り絞って、もう感覚のない水門を精一杯締めつけます。鍵を見ます。閉まっています。どなたかが入っていらっしゃいます。見なかった。見る余裕がなかった。いけません。もう隠せません、この姿を見られてはいけない。とにかく司祭館に。もう隠れられたらいい。隠れて、そこで、する。押さえた手を離し、たくし上げたローブを下ろし、私は逃げようとしました。がちゃっ。
「司教様?」
あ、ぁ、逃げられない。でる。でちゃう。がまん、がまん、がまん。できるだけ、自然に、おかしく見えないように、振り返ります。
「あ、あら、ミリィさん。」
お帰りになったのでは。私、帰る姿を見ました。どうして? 引き返していらした? そんなことされたら、そんなことされたら、私はこれから、私は、いつトイレに、おしっこでちゃう、おしっこ。そこに、行かせて。もう見えている、そこに。ひとりにして。
「司教様、お手洗いですか? どうぞ。」
「あ、いえ。」
口をついて出てしまいました。この状況で、意味がわかりません。トイレ、トイレ、といれ。普通に、一息ついて行くつもりだったということで、入ればいい、それでよかった。トイレ、おしっこ。どうしよう。たし、たし。足が止められない。足が止められない。でる。でる。おしっこでる。押さえなかっただけ褒めてほしい。どうか気づかないでください。トイレ、トイレ、はやく、はやく!!
「えっ?」
ミリィさんの声。背筋が凍ります。足が止まります。何に対して、仰いましたか。私の足ですか? 水の巫女が、ずっと守られてきた秘密が、私が、私が我慢できなかったから、どうしよう、脚の付け根が温かい、こぼれてる、こぼれてる、だめ、だめ、ここでもらしたら、入るしかない、言い訳は後で考えます、トイレに入る、トイレ、トイレ、トイレ、トイレぇっ!!!!
「で、では、失礼いたしますね。」
できるだけ自然に、できるだけ普通に、個室へ入ります。ドアを閉めます。音が鳴らないように、細心の注意を払って、腰をくねらせます。押さえます。ミリィさん早く。早く出ていって。でていって。でていって。じゅー。手が温かい。止まった。多分止まった。トイレが見えているんです。ここにあるんです。待たせないで。待てない。でる。でる。でる。でる! きぃ、ばたん。できる。していい。ぶるっ。ばさっ、ぎゅうう。たし、たし、たし。はぁ、あ、ぁっ、んっ、たし、たし、ばさっ、しゅるっ、ぶしょおおおお、しょおおおお!

……そのままの姿勢で、どれだけ経ったでしょうか。軽くなったお腹で、祈りの水が叫ばない頭で、私はしばらく、ぼんやりとしていました。下着が湿っています。……今見ると、個室の床も点々と濡れています。でも、もういいのです。よく、もらさなかった。それだけで、信心深いミリィさんなら、上手に話せば、わかってくださるはず。とりあえず掃除を済ませてから、どのように言い訳をするか考えましょう。下着の冷たさを無視し、ローブを整え、水を流します。やっと、落ち着いた午後が過ごせる。ドアを開きます。そこには、ミリィさんが……、聞かれた、扉が閉まった後のあれも、どれだけ出していたのかも、聞かれた。主よ。私は、私は……。
「あっ、あ、メリル様、メリル様、ごめんなさい、ごめんなさい。罰は受けます。でも、どうか、私の話を聞いてくださいますか。」
ミリィさんが、顔を青ざめさせ、今にも崩れ落ちそうに、仰いました。いけません、私のことばかり考えては。私は、みなさまの幸せのために、主の教えを伝えているのです。
「……ミリィさん、どうか落ち着かれてくださいね。まず、あなたはただここにいらっしゃっただけです。罰を受けねばならないようなことは、何もございません。」
「ですが、私は。」
「いいんですよ、落ち着かれますように。まず、落ち着きましょう。ゆっくり息を吐いていただけますか。」
「はい……。」
でも、このまま帰すわけにはまいりません。どうして残っていらしたのか、何を考えていらっしゃるか、気づいてしまったか、それは明らかにしなければ、そして、何とか言いくるめなければ。
「何か、聞いてもらいたいことがおありなのですね?」
ミリィさんは身体を縮めて、震えています。はじめて会ったとき、これまでの司祭様がいらっしゃらなくなる寂しさと、見知らぬ私に声をかけられた緊張とで、同じようなご様子でしたね。すっかりしっかりとしたお姉さんになったと思っていましたが、ミリィさんの中に、ミリィちゃんもまだ生きているようです。
「あらあら、初めてお会いしたときのミリィちゃんに戻ってしまったみたいですね。お時間が許すようでしたら、ついていらしてください。」

そのあと、ミリィさんの告解を受けました。その中身は、もちろん、誰にもお伝えできるものではありません。ですが、少なくとも、二つのことは申し上げられます。ひとつは、水の巫女が守ってきた秘密は、これからも守られるということ。そしてもうひとつは、おそらく、私の後にこの教会を守ってくださる水の巫女が、見つかったということです。きっと素晴らしい巫女になります。ただ、お話を聞く限り、もう少し……お稽古をつけて差し上げなければならないでしょう。幸いにも、昔心配したように、手加減してしまうことはなさそうです。何しろ、私もミリィさんにお稽古をつけていただいていたようですから。